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株のクロス取引とは?節税対策への活用方法や違法取引とならないための注意点も解説。

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株式投資のクロス取引について解説します。違法行為と見なされる可能性があるなどデメリットがある一方で、個人投資家が行うことで様々なメリットがあります。クロス取引を行う際の注意点とやり方もお教えしますので、クロス取引を行うかどうか判断する際の参考にしていきましょう。

株のクロス取引について調べたスマートフォンの画像

株式投資におけるクロス取引の概要

株式投資におけるクロス取引について解説します。クロス取引を行う意味とデメリットや注意点、禁止されてしまう場合をお教えします。中・上級者が行う場合が多い取引方法ですので、きちんとリスクを理解してから自身の投資の際に行うかどうか判断していきましょう。

クロス取引とは

一証券会社が、ある銘柄について同一株式・同一値段で同時に売買注文を出し、両注文を同時に約定させる取引方法のことです。「つなぎ売り」とも言われ、現物で保有している銘柄を空売り(*1)することで、保有銘柄の株価が値下がりするリスクを抑えることが可能となります。

(*1:株価の下落が見込まれる保有銘柄を信用取引にて売却し、値下がり後に買戻して利益を得る取引方法です。)

参考:クロス/クロス商い(クロス/クロスあきない) (SMBC日興証券株式会社公式サイト)

なんのために使うのか

クロス取引は、証券会社が大口注文を実行させるためや、個人投資家が株主優待の権利を得るために行なわれます。しかし、クロス取引を行っても損益は発生しません。では一体なぜ投資家はクロス取引を行うのでしょうか。以下では、個人投資家がクロス取引を行うことで得られるメリットをご紹介します。

株主優待で損をしないため

クロス取引を行うことで、株主優待の権利を無料で得ることが可能となります。

株主優待は、株式発行会社の権利確定日に現物株式を保有している株主に対して実施されます。しかし、株価が下落している銘柄を株主優待のためだけに保有することは得策とは言えません。そのため現物取引の買い付けと信用取引の空売りを利用することで、各注文約定後の株価に関わらず、損益なく優待を受けることが可能となります。

例えば、銘柄Aの株式を現物取引にて10万円の買い注文、信用取引にて10万円の売り注文を出し、約定したとします。翌日、株価が8万円に下落した場合、現物買い注文では2万円のマイナス、信用売りでは2万円の利益が発生し、結果的にプラスマイナスはゼロとなります。クロス取引を行うことで、株価を気にせず受けたい優待を受けることができます。

節税対策

クロス取引の活用方法の二点目に、節税対策があります。その年の確定済の利益があり、他保有銘柄に含み損がある場合にクロス取引を活用することができます。

例えば、ある年に100万円の確定利益がある場合には、20万円(*1)の税金がかかります。しかしその場合に、50万円の含み損(*2)が発生している銘柄をクロス取引することで、50万円の損失を確定させることができます。本来100万円の利益が発生しているにも関わらず、クロス取引を行うことで年間の利益額を50万円として確定することが可能となり、税金を10万円(*3)に抑えることが可能となります。

クロス取引は損益が発生せず、しかし取引として扱われることで節税対策に活用することが可能となります。

(*1:所得税15.000%、住民税5%。復興特別所得税0.315%は除いて考えます。)
(*2:保有銘柄が損失状態にあること。この場合では50万円の損失が生じている状態を「50万円の含み損」と言います。)
(*3:利益額50万円×税率20%=10万円)

クロス取引のデメリット・注意点

株主優待を無料で享受することができ、節税対策にも活用することができる一方でデメリットがあります。ここからは、クロス取引を行うことで投資家が被り得るデメリットとクロス取引を行う際に注意したい点をお教えします。

信用取引口座の開設が必須

クロス取引のデメリットの一点目は、信用取引口座の開設が必須なことです。クロス取引を行う際には、信用取引を行う必要がありますが、信用取引を行う際には通常証券口座からではなく専用の信用取引口座の開設が必要となります。

信用取引専用口座は、証券会社から株式や資金を借り入れて行う取引方法であることから口座開設のハードルが高く、口座開設手続きにも時間がかかります。そのためクロス取引を行いたいと思った場合でも、信用取引専用口座を保有していないとすぐに取引を行うことができません。

コスト

クロス取引は現物取引と信用取引を同時に行うことになるため、現物取引の手数料・信用取引の手数料や貸株料がかかるデメリットがあります。

  • 売買手数料
  • 同時に現物取引と信用取引の二取引を行うため、二倍の売買手数料がかかります。

  • 信用取引の貸株料
  • 信用取引は株式を借りて取引を行うため、株式を借りた日数分だけ貸株料(かしかぶりょう)が発生します。

  • 逆日歩(ぎゃくびぶ)
  • 信用取引の際の貸株が市場に不足している場合に、証券会社を経由して生命保険会社や損害保険会社などから株式を調達した場合にかかる可能性のある品貸料です。

  • 配当相当額
  • 現物取引では保有銘柄の配当金を受け取ることとなりますが、信用取引では配当相当額を支払うこととなります。クロス取引を行うことで、現物取引の配当金と信用取引の配当相当額の差額がコストとして発生する可能性があります。

    参考:逆日歩(ぎゃくひぶ)とは何でしょうか? (松井証券株式会社公式サイト)
    参考:配当金相当額とは何ですか? (楽天証券株式会社公式サイト)

    信用売の銘柄が限られる

    信用売りの場合、証券会社が指定した銘柄のみしか取引を行うことができません。そのため、クロス取引を行うことが可能な銘柄は限定されてしまうデメリットがあります。

    損得の考え方

    株価に関わらず損益が発生しない取引で、投資家に損益が出ないクロス取引では、どのように損得を判断することとなるのでしょうか。ここからはクロス取引の損得の基準を解説します。

    配当・優待と手数料のバランス

    株式投資のクロス取引では、株主優待と取引にかかる手数料の差が損得となります。これは、クロス取引を行っても投資家に損益が発生せず、配当金についても配当金相当額と相殺されるためです。

    逆日歩がかからない一般信用取引

    証券会社と投資家が一対一で取引を行う一般信用取引では、貸株が不足した際にかかる逆日歩が発生せず、クロス取引を行う際のリスクを回避することができます。

    逆日歩は、信用取引の需要が増えることで貸株が不足することでかかる可能性があるコストですが、証券会社と投資家が直接取引を行うこととなる一般信用取引で逆日歩が発生することはありません。本来損益が発生しないクロス取引において、逆日歩が発生することは大きなリスクとなりますが、一般信用取引を行うことでこのリスクを回避することが可能となります。

    クロス取引を効率的に活用するために、一般信用取引を選択することも有効な方法です。

    禁止されるクロス取引

    法的に禁止されているクロス取引をお教えします。以下の二種類に該当することがないよう、クロス取引を始める前にきちんと理解しておきましょう。

    ザラ場中のクロス取引

    寄り付きから引きまでの通常取引時間であるザラ場にてクロス取引を行うことは禁止されています。

    ザラ場とは通常の取引可能時間のことを指し、この時間帯にクロス取引を行うことで違法行為となる可能性があります。金融商品取引法では相場操縦行為(*1)が禁止されており、同時に複数取引を行うクロス取引は、他投資家を株式市場が活発であると誤解させる可能性があるとして相場操縦行為に該当する場合があります。

    しかし、具体的な基準が明確ではなく、どのようなケースで法令違反と見なされるかははっきりと分からないため、ザラ場中のクロス取引を避けることが大切です。

    (*1:金融商品取引法第159条にて規定されています。)

    参考:ザラ場(ザラば) (SMBC日興証券株式会社公式サイト)
    参考:金融商品取引法第159条 相場操縦行為等の禁止 (e-Gov イーガブ公式サイト)

    違法と判断された場合

    クロス取引は、市場占有率やクロス取引の頻度、回数などを客観的に見た際に、他投資家がクロス取引をした銘柄の売上が上がっていると誤解される状況になった場合に違法と見なされます。過去には実際に岐阜銀行が行ったクロス取引がこのような状況であるとして、金融庁から違法として課徴金が課されました。

    信用取引ができる銘柄

    信用取引では、一般信用取引でも制度信用取引でも、取引可能な銘柄が指定されています。

    1. 制度信用取引:証券取引所の選定条件をクリアした銘柄
    2. 一般信用取引:各証券会社が指定した銘柄

    制度信用取引において取引所の基準をクリアした銘柄のことを「信用銘柄」と言いますが、信用銘柄は信用買いしか行うことができません。信用売りのために借り入れを行うことができる銘柄は「貸借銘柄(たいしゃくめいがら)」と言われ、信用銘柄の中からさらに厳選されることとなります。

    一般信用取引では、証券会社各社が指定した銘柄を信用取引することができます。銘柄によっては、制度信用取引を行うことができない一方で一般信用取引を行うことができる場合があります。

    参考:制度信用・貸借銘柄一覧 (日本証券所グループ公式サイト)

    クロス取引のやり方

    ここからは、実際のクロス取引のやり方を説明します。

    SBI証券の場合

    SBI証券のクロス取引のやり方をお教えします。SBI証券にて証券口座を保有している投資家の方は参考にして自身の株式売買取引の際の参考にしましょう。

    信用口座を開設

    まずは信用取引専用の証券口座を開設する必要があります。SBI証券では、通常証券口座と別で信用取引専用口座の開設を申請する必要があります。

    信用取引は専用口座を開設していなければ行うことができません。公式サイトから専用口座開設の申請を行いましょう。

    注文の流れ

    SBI証券へログインし、銘柄の詳細ページから「信用売」をクリックして現物買いしたのと同じ株数と価格を入力します。現物買いを150株式にて発注した場合には、株数を150と入力し、注文発注を選択することで注文が完了します。

    楽天証券の場合

    楽天グループのネット証券会社、楽天証券でのクロス取引のやり方を説明します。

    信用口座を開設

    楽天証券では、証券口座開設後、別途申込によって信用取引口座を開設することが可能となります。公式サイトから手続き可能ですので、申し込みを行いましょう。

    注文の流れ

    SBI証券同様に、信用売りをしたい銘柄ページから「信用新規」ボタンをクリックして発注することができます。ただし、楽天証券の注文入力画面では信用買いを行うことも可能となっているため、きちんと「売建」、信用区分を「制度(6ヶ月)」を選択することが大切です。

    現物買い注文と同じ株数・価格を入力し、内容を確認後、注文をクリックして信用売りの注文が完了します。

    リスクを理解して慎重に

    株式投資のクロス取引を解説しました。クロス取引は、株主優待をお得に受けること、節税対策に活用することができる魅力的な取引方法です。しかし一方で信用取引専用口座の開設が必要なことや取引コストが通常取引よりもかかってしまうデメリットがあります。また、場合によっては法律で禁止される取引に該当してしまう可能性があり、注意すべき点が多い取引です。

    クロス取引を行う際には、逆日歩リスクを回避することができる方法など、知識を身に着けてから活用することが大切になります。リスクをきちんと理解したうえで、自身の投資に活用するかどうかを判断していきましょう。

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